自転車アシストギア「フリーパワー」にマジレス

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すっかり定着した感のある自転車ブームの乗っかろうとしたのか、新たな自転車デバイスが出てきた。「自転車革命」「革命的機構」とか言われているので、その実態を真面目に検証してみた。一応、これでも技術者の端くれで、元ロードレーサー乗りとしては、この手の新技術?には真面目に検証したくなるのだ。

 

結論から言えば、推測だが、このデバイスを使えば(自転車乗る時に非常に大切な)「滑らかなペダリング」が得られるはず。しかしピーク出力は落ちて、立ちこぎ(スタンディング、ダンシング)に違和感があるかもしれない。

 

たぶん、革命的とかいう表現は開発した技術者が使った言葉では無いだろう。開発した会社の広報か、取材した人の表現だろう。このデバイスの機構自体は革命的でも無いからだ。

まず、大前提として「エネルギー保存の法則」がある。

エネルギー保存の法則 - Wikipedia

熱力学の第一法則であり、「孤立エネルギーの総量は変化しない」という物理学における保存則の一つである。このデバイスの宣伝文句にあるように

人力だけなのに従来の自転車より加速力アップ、坂道もスイスイと上ってしまう! そんな革命的機構の名は「FREE POWER」。

自転車が生まれて200年たった今年、そこに待ったをかける自転車革命が起こった! なんと、電池のいらないアシストギアが誕生したのだ。

ちょっと盛った表現が踊っている。エネルギー保存の法則を打ち破るかのような勢いのある表現だ。まあ、これはたぶん客寄せパンダなので、本文をよくよく読み込むと、開発者の説明がある。こちらはマトモなので、怪しい企業が開発した怪しいデバイスではないことが分かる。

ペダルをこぐと、その間ずっとギアに力が伝わっているように思われますが、実はペダルが12時と6時の位置に来たとき、脚力が無になる瞬間があります。なので、そのデッドゾーンを逃さず、力を放出する仕組みを作りました。

あらかじめギア内部に搭載されたシリコーンを、ペダルを踏み込んだときに圧縮し、上下死点デッドゾーン)に来た瞬間に、その反発力を放ち、推進力を生み出します。これが、電池のいらないフリーパワーの秘密です」(古屋氏)

 自転車のクランクは、通常は、フロントギアと直結しているが、このフリーパワーはクランクとフロントギアの間にシリコンのダンパーが入っている。ただそれだけのシンプルなデバイスだ。

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人はペダルを回して自転車に出力を与えるのだが、ペダル位置によって出力は変化する。当然、右足と左足の両方で出力を与えるが、左右ペダルは180度ずれている(当たり前だ)。12時だと力はかからずゼロで、2時ぐらいから力がかかり初めて3時~4時ぐらいが力のピーク、5時ぐらいから落ち始めて6時にはゼロだ。これを簡易的にグラフで示すと上図のようになる。青系でかかれた出力曲線になるはずだ。

古屋氏の解説にある通り、このデバイスは「ペダルをふみこんだときに(シリコンを)圧縮」するので、ペダル位置でいうと12時から6時まで間に圧縮することになる。当然、その圧縮する分だけ自転車の出力は落ちる。そして「上下死点デッドゾーン)に来た瞬間に、その反発力を放ち、推進力を生み出します」ということで、圧縮されたシリコンがもとに戻る力を12時と6時の位置で開放する。推測だが、上図でいると赤系でかかれた出力曲線になるはずだ。

このグラフで分かるように、このデバイスの出力のキモは、普通の自転車で出力ゼロになる12時と6時にも出力が得られることにある。想像だが、ペダリングが滑らかになるのではないだろうか。滑らかペダリングは自転車を乗る上で非常に大切なことだ。かつて、ワタナベレーシングサイクルのオッサンに教わったペダリングは「ハムスターのようにペダルを回せ」だった。

最初の踏み込みこそクニャッと鈍いが、軽く踏み込めるので、店内に作られたスロープを軽いタッチのまま、スイスイと上ることができた。普通の自転車なら力強く踏み込むべきところが、ずっと軽いペダリングのままなのだ。

この説明は開発者ではなく取材した人の感想だろう。「最初の踏み込みこそクニャッと鈍いが」というのが、シリコン圧縮に力を使ったからだろう。このクニャッが軽いタッチを感じさせるのかもしれない。

先のグラフからも分かるように、このデバイスを使うと自転車のピーク出力は落ちている。平地を走るだけならば、そんなに影響無いはずだ。これが何に影響するかといえば登坂だろう。スタンディング、ダンシングなどしたら違和感があるだろうな。ペダルが抜けるような感じか。しかし、滑らかペダリングが同時に得られるはずなので、そちらの効能の方が大きいかもしれない。

自転車の怪しいデバイスは星の数ほどあって、出ては消え、出ては消えを繰り返している。その中でもこのデバイスはそんなに悪くないデバイスなんじゃないだろうか。ママチャリに付けるなら良いんじゃないかな。

 

ただし、電動アシスト自転車の方が楽なので、素直に電動アシスト自転車を買ったほうが良いと思います。電動アシストが嫌だったら、自分の体格にピッタリ合った軽量な自転車を選んで、ビンディングペダルが使えるようになれば、とても楽になると思います。