文書生活 : TEXT LIFE

文書のある生活

カノン

何気なく図書館で借りた本を読み始めた。最初は単なるホラーかと思っていた。しかしそれは間違いであることが分かってきた。まだ読み終わってないが、甘く苦く切ない想いが時々フラッシュバックしてしまう自分には、こういう物語はのめり込まずにはいられない。

主人公は40手前の女性。大学生の頃に思いを寄せていた人が自殺。遺書代わりに残されたテープにはバイオリンの演奏が録音されていた。その音楽(=バッハのカノン)を聴いていると、忘れていた熱い感情がこみ上げてしまう。当時一緒に居た思いを寄せてくれた男性も、その音楽によって熱い感情がこみ上げてしまい。。。

と、ここまで読んだ。本来のストーリーはこの音楽を聴くと具合が悪くなったり、亡霊を見たりというホラーなのだが、どうしても忘れかけていた青春の甘く切ない思い出に、現在の自分が翻弄されてしまう心理描写に重点が置かれている。

最近はこの手の物語についつい引き込まれてしまう。別にこの手の物語を選んでいる訳ではないが、本当に無意識に図書館の棚から手にする本が、この手の物語なんだよなあ。人には物語が必要だ、と言われるが、今の自分にこんな甘く切ない物語が必要なのかもしれない。こういう物語と出会うのは神の御技なのだろう。

こんな本を読んでいると、ついつい昔のことを思い出してしまう。高校の頃の友人に、毎日遅刻して社長出勤だから「社長」と呼ばれていた。高校2年の夏から1年間インドネシアのバリ島に民族舞踊を舅憂くするため単身留学してしまうような人だった。親父さんはTV局だかマスコミ関係の人で野毛のあたりに住んでいて、学区外から通学していた。放課後の教室で二人でたわいもない長話をしたり、ギターを教えてやったり、サテンに長居したりとよく一緒に遊んでいた。二人とも集団行動が苦手だったから、気が合ったのだろう。

自分はちょっと社長が気になる人だったんだけど、今思い返せば、社長にも少しはそんな気持ちもあったのかもしれない。社長から誘われることもあったし。端から見れば一目瞭然だったかもしれない。自分は鈍かったんだろう。でもあの頃の自分たちは感情の表現も上手く出来ず、なんとなく自分の気持ちをごまかして、仲の良い友達であろうとしていたんだろう。

社長は自分のことを「オレ」言っていて男みたいな話し方をしていた。一度もスカート姿を見たことが無かったし、暗い色の服ばかり着ていた。自分が女性であることが照れくさく、持て余していたのかもなあ。

1年後に社長はバリ島から戻ってきた。土産にガラムをもらった。一緒にサテンでふかしてみた。甘い味が唇に残って、いつまでも消えなかったことを覚えている。そのころの自分は受験勉強を始めていた。遊ぶ時間が作れずに、なんとなく疎遠になってしまった。

今頃何処で何しているのやら。