文書生活 : TEXT LIFE

文書のある生活

オペラ撮影記

昼食を終えてE市の文化会館へ向かう。今日は写真部イベント「オペラ撮影会」なのだ。そもそもオペラやクラシック・コンサートは私語雑音厳禁で撮影などもってのほか。今回は写真部月例会で利用している中華料理屋のマスターの計らいで撮影が実現した。中華料理屋のマスターというのは世を忍ぶ仮の姿で、本業は東京芸大大学院出身のオペラ歌手なのだ。しかも実兄も米国で活躍しているバリバリのオペラ歌手。今回はその兄弟のジョイントコンサートのジャパンツアー初日。その準備、リハ、本番、終了後のサイン会までを撮影して欲しいとマスターから依頼があったのだ。オペラ・コンサートを撮影出来る機会などそうそうあるものではない。今回は滅多にない機会なので自ずと気合いが入る。

撮影機材はLEICA MP、レンズはSUMMICRON 35mm F2(7枚玉)、M-Hexanon 50mm /F2、ELMARIT 90mm F2.8の三本。フィルムはPRESTO。90mmでステージ撮影は正直役不足だが、LEICAのシャッター音が一眼レフより小さいことを活かして機動力でカバーすることにする。ジャケットのポケットにフィルムとレンズ2本を詰め込で、フットワークで勝負するのだ。写真部重鎮の方々はデジタル一眼レフ+白レンズで撮影に挑まれることだろう。機材では勝負にならないのは最初から分かっているのだ。だが、それでいい。

14時過ぎに開場到着するも、写真部の方々は誰もいない。仕方なく守衛さんにお願いして楽屋に入れて頂く。ステージでは音合わせが始まっていた。バックステージからステージサイドに恐る恐るはいる。物凄い静寂と緊張感の中を、深く、そして高らかで伸びやかな歌声が響き渡る。おおぉ、これが本物のオペラ歌手の歌声か!この響きがフィルムに残せない物だろうかと、生意気にも芸術的な身の程知らずなことを考えてしまう。音合わせの合間にマスターにご挨拶。本日の撮影段取りを軽く確認する(写真部重鎮が居ないので、私が交渉しているのだ)。やはり本番中は撮影は難しそうだが、後半からアンコールにかけては自由に撮影してください、とのありがたいお言葉を頂いた。

緊張感に押されてシャッター切れずにいたら、写真部重鎮の一人Y氏が到着。写真部部長作成の「コンサート・撮影」と入った腕章を持ってきてくれた。この腕章を付けたら、なんとなく根拠のない自信が沸いてきて、撮影出来るようになってきた。準備中のロビー、バックステージ、リハ風景、楽屋などを撮影して回る。レンズも35mmと90mmをとっかえひっかえ撮影。レンズ交換も大分慣れてきた。撮影テンポが上がってきたあたりで、会場設営とリハも終了。この頃になって部長、AM氏、AD氏が到着。開場や入場の風景など各人各様の撮影に走り出す。

18:00開演。客席はほぼ満席。開場の最後部に陣取ってカメラを構える。Y氏はこの日のために浅浅井慎平バリの消音ボックスを自作してきた。流石だ。最初はエレクトーンの独奏。客席が拍手している間などにシャッターを切る。その後オペラ楽曲の独唱が始まる。リハの歌声を越えるすばらしさに衝撃を受けた。人を感動させる歌声は確かに存在した。前半最後の曲「千の風になって」では、不覚にも涙がにじんでしまい、ファインダー像がぼやけてピントが合わせられなかった。いや、素晴らしい!

休憩時間に入り、客席最後部から客席前列に移動。各人各様のポジションを陣取り静かに後半スタート。徐々に会場のボルテージも上がってきたことを確認しながら、少し多めにシャッターを切る。アンコールに入ってからは少々移動しながらシャッターを切る。途中客席風景なども撮影。

大盛況の内にコンサートは終了。終了後はロビーでサイン会。こちらも適宜撮影。気が付けば36枚撮り5本を消費していた。14:00から21:00ちかくまで撮影しっぱなしだったので疲れた。帰りがけに写真部で軽く打ち上げして解散。何か良い絵があればいいんだけど。